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唇を弄っていた指が、歯をなぞって中に入ってくる。 「ぅ・・ん」 「歯、立てないで。大丈夫だから」 えりかさんの声は近いような遠いような不思議な響きを帯びながら、耳を熱く掠めていく。舌の上で指が踊って、出したくもない変な声が漏れる。 「もう少し・・ごめんね」 眦に触れた唇が、零れ落ちる涙を掬い取ってくれた。 「ウフフ・・・」 「どうしたの?」 唇と胸から、えりかさんの手が離れる。少し不安そうな顔をなさっていて、私は慌てて「違うんです」と言葉を繋いだ。 「ごめんなさい、何か、嬉しくて」 「嬉しい?」 「何か、今日の千聖はえりかさんの恋人になれたみたいで・・・」 思い切って言ったものの、えりかさんの反応が怖くて語尾が萎んだ。 今日はいつもの触れ方とは違っているから、調子に乗ってしまったのかもしれない。 でも、私を落ち着かせたり気持ちよくさせてくださるだけじゃなくて、えりかさんも楽しんでいらっしゃるような・・・それに、今日はいっぱいキスをしてくださるから、そんな都合のいい思いが浮かんだのだと思う。 うつむいてまともに顔を見れないでいると、えりかさんが下から私の顔を覗き込んだ。少しずつ距離が縮まって、また唇がくっつく。 「えりかさん、」 「言ったでしょ、千聖はえりのだって。」 「・・・舞さんも、いつも千聖に同じことを言ってくださるわ」 「ええっマジですか!・・・・・・じゃあ、舞ちゃんと共有ってことで」 えりかさんの大げさなリアクションに和んで、顔を合わせて笑ってしまった。・・・でもきっと舞さんは、そんなことは認めないって怒り出しそう。 「続き、してもいい?」 「ええ。・・・えりかさん、今日、爪が随分短いですね・・」 さっきまでは気づかなかったけれど、いつも大人っぽく四角い形に揃えられているえりかさんの爪は、指との境目ぎりぎりまで丸く切られていた。 同じ形にしたくてこっそり伸ばしていた自分の爪が、置いてけぼりになってしまったみたいで少しだけ淋しい気がした。 「うん、まあね。これぐらい短くしておかないと、千聖が・・」 「え?」 聞き返そうと顔を上げかけた時、突然、無意識に腰がビクッと跳ねた。 えりかさんの指が、ソコ、にあてがわれていた。 お湯の中で踏ん張りの利かない足が、もたもたともがく。 「やっ・・・えりか・・・・」 「ダメ?」 その場所に触られるのは初めてではないけれど、普段とは違う気がした。表面を指で擦るいつもの行為ではない、細やかな指の動きになんとなく不安を覚えた。 「なるべく痛くしないから・・・」 片側の手で私を抱き寄せて、髪にキスをくれる。身長の低い私の目線には、えりかさんの胸。ただ大きいだけの私のとは違って、白くて形が良くて、うらやましい。甘えるように顔を埋めると、柔らかい感触に包まれて心地良い。 ボディソープで洗ったばかりなのに、えりかさんの胸からは、薔薇の香りが仄かに感じられた。いつも使っていらっしゃる練り香水の匂いは、もう肌に馴染んでいるのかもしれない。何となく安心感を覚えて、えりかさんの背中に手を回して目を閉じる。 「嫌だったら言って、すぐやめるから。痛いのもちゃんと言って」 「・・・はい」 動きを止めていた手が、何かを探るようにその場所を這う。くすぐったさで体が強張る。 「千聖、ちょっと力抜いて」 肩を抱いていた手が、すっかり敏感になってしまった胸の先を摘んだ。 「・・・っ!やっ・・・待って・・・」 「落ち着いて、怖くないから」 下に添えられた指の動きが変わった。 感じた事のない違和感と、少しの痛み。えりかさんが私のそこに、指、を入れようとしている。 「痛い?」 「少し・・・。でも、大丈夫、です」 「続ける?」 「・・・・はい」 「わかった。じゃあ、難しいかもしれないけど、もうちょい力抜いて・・・」 腰を掴まれたり胸に触られると、体がビクンと跳ねて動かなくなる。えりかさんはそのタイミングを計って、指を押し入れているようだった。少しずつ圧迫感が深くなる。 お湯に浸かっている体はぽかぽかしているのに、えりかさんと繋がった部分は冷たいような熱いような、不思議な感覚だった。 「・・・千聖」 「んっ」 食まれた耳が熱っぽく疼く。えりかさんは私の反応に満足したのか、ほんのり笑って「繋がってるとこ、見る?」と囁いた。 「う・・・」 さすがにそこまでの勇気はなく、無言で首を振る。特に気分を害したようでもなく、えりかさんはうなずいてまた私を抱き寄せてくれた。 「・・・」 「・・・」 それからしばらく、えりかさんの指が体の中に入ったまま、無言で寄り添って観覧車を眺めた。 気まぐれに顔に降ってくるキスが気持ちいい。ただただ幸せで、ゆるやかな時間が流れる。 「髪、伸ばすのやめちゃったの?」 「ええ。短い方が千聖らしいのかしらって・・・あ・・・」 頭を撫でてくれるえりかさんの手を取って指に触れたとき、ふとあることが頭に浮かんだ。 「ん?どうしたの」 「いえ、あの・・・爪が」 「爪?ちょっと、何で顔赤くなってるの?気になるじゃーん。ちゃんと最後まで言ってよー」 「その、えっと・・・今日あの、千聖に、だから、・・・・切ったのかな、っておもって」 何て言えばいいのかわからなくて、かなり噛んでしまったけれど、えりかさんは私の言わんとすることをわかってくれたらしい。 「ていうか、遅っ!今気づいたの?千聖ぉ」 「あ、あのそんな、だって、まさか、えと、そんな・・・ンッ」 慌てて体を捻ったことで、体の中で馴染んでいたえりかさんの指の感触が内側で蘇る。 「そろそろお風呂上がろっか。のぼせちゃいそう」 「ふぇ・・・は、はい・・・」 「じゃあ、とりあえずいったんここで」 「あぅっ・・・」 浴槽から出るのかと思いきや、えりかさんは私の背後に回って、最初と同じように抱きかかえてくれた。空いていた手がゆっくりと下に伸びて、私の敏感な外側のところに触れる。 「あっ!んっ、んぅ・・・」 「大丈夫、もう少し力抜いて・・・千聖可愛いよ」 内側と外側で連動させているかのように、指が動く。もう痛みはなく、耳元で「可愛い」と言われる度に、おへその下あたりがむずむずと反応する。えりかさんの腕の中で、今までも何度も味わった感覚。 「あぁ・・・あ、え・・り・・・・・や、ぅ・・ぁ」 もはや自分が何を言っているのか、よくわからない。体のあちこちが緊張し始めて、目の前の観覧車が滲んでぼやけて、眩く点滅している。 「可愛いね、千聖」 「――っ!!」 もう何も考えられない。あふれ出しそうな声を必死で抑えても、バスルームには私のはしたない息づかいとお湯がかき回される湿った音が反響する。 「あぁ・・・・」 「千聖?」 ゆっくりと体から力が抜ける。体から圧迫感が消えていくのをぼんやり感じながら、徐々にえりかさんの声が遠ざかっていった。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 「りーさん。じゃなくて、りぃちゃあん!・・・・ちょっと違うわね。りーちゃん♪りーちゃ・・・」 しばらくぼんやり窓の外を眺めたあと、いきなり千聖は私の名前を呼ぶ練習を始めた。 り、りーさんだって。ププッ 真面目な顔で名前を連発されるのがおかしくて思わずフンッと鼻息を漏らしてしまった。 「ん?」 千聖が顔を近づけてくる。私は慌てて寝返りを打つふりでごまかした。 「暑いのかしら・・・」 目を閉じていても、至近距離で見つめられているのが気配でわかる。 何だか甘い匂いがする。とっても甘い、バニラみたいな。 多分これは私の好きな魔女っぽいブランドの香水だ。 そういえばさっき頭をゴーンとやってやった時も、ふわっと香っていたかも。 ちょっと高いし大人っぽいアイテムだから、まだ買おうか検討中だったのに、まさか千聖に先を越されてしまうなんて。 プロレスやスポーツじゃ千聖に負けていたけど、オシャレ関係は絶対私の方が詳しいし気を使っていたはず。 何か悔しいな。千聖、前はシャンプーの匂いぐらいしかしなかったもん。 「ずるい。」 「ひゃっ!な、なんだーりーちゃん起きてたの?びっくりしたぁ。」 ブランケットから目と鼻だけチョコンと出して、千聖を睨んでやった。 「りーちゃん倒れたって聞いて、心配だからあいりんと様子みにきたんだよ。・・・で、ずるいって何が?千聖が?」 「知らないもん。」 「何だよぅそれ~」 さっきとは表情も喋り方も全然違う。今は、私が一番よく知ってる千聖だ。 「今あいりんが飲み物会に行ってるからね。何かやってほしいこととかあったら言って?」 ・・・あぁ、でも笑い方とかはやっぱりちょっと違うな。何かお姉さんぽい。 「千聖、何でもしてくれるの?・・・・じゃあさ、悩み相談に乗ってくれる?ももと違って、本当に相談したいことがあるの。」 「悩みかあ。うん、私でよければ!」 私はゆっくりと起き上がって、ベッドに腰掛けている千聖の手を握り締めた。 「あのね、私、友達の内緒話を偶然聞いちゃって。」 「うん。」 「でもち・・・その子は私がまだそのことを知らないって思ってて、全然話してくれないのね。他の子は知ってることなのに。」 あれ・・・・。何か目がじわじわ熱くなってきた。 「でね、わ、私にだって、ちゃんと教えてほしいの。ずっと前からの仲間だし、できることがあったら手伝いたいのに。知らないふりするの、辛いよ。」 「りーちゃん。」 繋ぎあった私と千聖の手の上に、私の涙がポツポツと落ちた。 泣いたりするつもりなんかなかったのに、いちどあふれ出したら止まらなくなってしまった。 まともに顔を見たらもっとワンワン泣いてしまいそうだったから、おでこをゴチッとぶつけて歯を食いしばった。 「りーちゃんは・・・・その人のこと、すごく大切なんだね。」 「うん。私千聖のこと、大切だと思ってるよ。」 「・・・・・えっ・・」 あっ 千聖の手がピクッと反応した。 うつむいた私の目線の先で、柔らかそうな唇が、何かを言おうとしてるように閉じたり開いたりを繰り返している。 「あっ、と、えと、今、のは、あっ、ちがくてっ」 ど、どうしよう。 ゆっくりおでこを離すと、千聖と思いっきり目が合った。 千聖の目は不思議な色をしている。 黒目がとても大きくて、いつもきらきらしていて、私の憧れている魔女みたいに、全部を見通してしまうような魔力があるような気がする。 この目に見つめられたまま何か聞かれたら、きっともうごまかせない。 千聖の口が開く。 お願い、何も言わないで。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/364.html
数分後、綺麗にラッピングされたキーホルダーを受け取って、私とえりかさんはお店を出た。 「ちょっと歩くけど、いい?」 「ええ。どちらへ連れて行ってくださるの?」 「ふふ。着いてからのお楽しみだよ」 えりかさんは慣れた様子でショッピングストリートの横道に入ると、私の手を取って坂道を上り始めた。 この辺一帯は高級住宅地らしく、デザイナー物件のような個性的な邸宅から、煉瓦造りの重厚な家屋まで、さまざまな豪邸が軒を連ねている。 のどかで落ち着いた風景に、穏やかな表情のえりかさんが溶け込む。まるで、絵画のように美しい光景だと思った。 「もう秋なのに、暑いね。・・・延び延びになっちゃってごめんね。ウチが旅行に誘ったのに」 「いえ、そんなこと・・・いいんです、私。いっぱい構っていただけて、それだけで幸せですから」 本当は、ゲキハロが終わったらすぐに旅行に行くつもりだった。だけど、私の学校の期末試験や夏のツアー、ハワイの準備でオフの時間が合わず、結局、今日――9月の上旬にまで延びてしまっていた。 私はえりかさんのそばにいられるだけで、十分に幸福だと思える。 だから、都合がつかなくて中止になってしまっても、ちゃんと割り切れるつもりでいた。でも、えりかさんはちゃんとこうして私のために時間をくれた。本当に、幸せなことだと思う。 「ハー、ハー、まだ坂道続くけど、大丈夫?ぜぇぜぇ」 思ったより坂は長くて、まだ疲れてはいないけれど、少し額に汗が滲んできた。 えりかさんは軽く舌を出しながら、疲労困憊といった顔で私を見つめた。 「ウフフ。千聖は大丈夫ですよ。ウフフフ」 「もー、ハァハァ、梅さん年だからさー、千聖は本当体力あるよね、ゼーゼー」 おおげさな呼吸に、2人で同時に笑い出す。私もえりかさんの真似をしてみせたりして、はしゃぎながら坂道を歩いた。 えりかさんは本当に優しいと思う。いつも周りに気を配ってくれて、私は昔から幾度となくえりかさんに救われてきた気がする。 えりかさんが、キュートを卒業する。 それを初めて聞いたのは、本当にずいぶん前のことだった。それこそ、私が頭を打つ前のことだったかもしれない。 スタッフさんたちやえりかさんの配慮でもあったんだろう、「今すぐじゃなくて、もっと後の話だけど」という形でのお話だったから、現実のこととして、しっかり認識できていなかったように思う。 だから、漠然と“辞めないでほしい”とか“もしかして、そのうち気が変わって残ることになるんじゃないか”という願望は持っていたものの、最近まで実感を持てないままでいた。 だけど、その日が少しずつ近づいてくるにつれ、私はそれが現実に起こることであり、そしてもう、えりかさんを止めることは絶対にできないのだと本能的にわかってしまった。 えりかさんは、簡単に思いを口にする人ではない。 そして、どれだけキュートのことを愛してくれているのか、舞美さんも早貴さんも愛理も舞さんも、私もよく知っている。そんなえりかさんの大きな大きな決断が、今更覆るはずもない。 引き止めてつなぎとめられるぐらいの意思なら、えりかさんは何も言わず、多少無理してもキュートに残ってくれたはず。 だから、もう私にできることは、えりかさんが笑って旅立っていけるように、残された日々を一緒に笑って過ごす。それだけだと思った。 「千聖?」 急に黙ってしまった私を気遣うように、えりかさんの足が止まる。 どうしよう、今日は楽しく過ごそうって決めたのに。急にあふれ出した感情を、塞き止めることができない。 「・・・どうしたの?」 「あ・・・・あの、何か、私、走りたい・・気分なのでっ・・・ちょっと先に行ってますねっ」 「ちさ・・・」 優しい手を振り切って、私は急な坂道を大またで駆けた。 呼吸が乱れる。視界が霞んで、唇が震えているのがわかる。 前の私は悲しいことがあると、えりかさんに思いをぶつけて、優しく慰めてもらっていたらしい。今でもなんとなく覚えている。 頭を打って性格が変わってからは、自分のことがわからなくなって、不安でたまらなくて打ちのめされそうになるたびに、えりかさんはいつも心も体も受け止めてくれた。 でも、もうすぐその温もりは消えてしまう。 あと何回、こうしてえりかさんの優しさに触れられるだろう。 あと何回、2人きりで会うことができるのだろう。 あと何回、私はえりかさんの手に―― 「千聖!」 坂を上りきって息を整えていると、思っていたよりもずっと早く、えりかさんの足音が聞こえてきた。 「ほ・・ほんと、足、速っ・・・」 走るのはあまりお好きではないと言っていたのに、えりかさんはひどく呼吸を乱してまで、私を追いかけてきてくれた。 メイクをしていない日でよかった。 私はほっぺたにこぼれていた滴を拭うと、えりかさんに向き直る。 「ごめんなさい、何かテンションが上がってしまいました。」とはにかんでみせた。大丈夫、まだ笑うことぐらいはできる。 「・・・千聖」 私の大好きな、えりかさんの色素の薄い瞳が揺れた。声をかけようと口を開く前に、顔に柔らかなものが押し付けられた。 同時に、背中を痛いぐらいに絞られるような感覚を覚える。――抱きしめられた、と理解したのは、数秒遅れてからだった。金縛りにあったように、身動きがとれない。 坂の上は人通りの多い道路沿いの道で、道ゆく人が、私たちを興味深そうに見ながら通り過ぎていく。バスのクラクションの音や、同年代の女の子の楽しそうな集団の笑い声が、どこか遠くの音の様に、非現実的に感じられた。 「えりか、さん」 やっと搾り出した声に、えりかさんの細い指がピクンと反応した。 「・・・ごめん。息切れが収まんないから、千聖にしがみついちゃったよ。ほら、苦しすぎてなみだ目になっちゃった」 「ウフフ。そんなに無理なさらなくても。千聖、ちゃんとここで待っていたのに。」 私たちは、お互いに何も言わなかった。 私の鼻が真っ赤になっていることも、えりかさんのマスカラを滲ませる涙の理由も、今はまだ触れてはいけない気がした。 「・・・・えりかさん、行きたいところがおありなのでしょう?ここから、どちらに歩けばいいのかしら」 「あぁ、ごめんごめん。そっち、左ね。そうそう、全然関係ないけど、この前リハの時舞美がさぁ~」 空気が綻ぶ。 湿っぽいのはやめよう。今日は泣くために会いに来たわけではないのだから、えりかさんと2人で過ごせる時間に、素直に感謝しよう。 「ウフフッ、嫌だわ、舞美さんたらそんなことを・・・あら」 雑談で盛り上がりながらしばらく歩いていると、まるでドラマのセットみたいな美しい洋館が何棟か姿を現した。 「綺麗・・・」 閑静で瀟洒な街の雰囲気を、より一層引き立たせるような空間。生い茂る木々から木漏れ日が漏れて、噴水の傍らでは小さな子供が遊ぶ。とても平和な光景が、広がっていた。 「ウチのお気に入りの場所なんだよ。千聖、好きでしょ?こういう建物」 「ええ、とても。」 「よかった。前の千聖は、全然興味なさそうだったけど。」 「あら、ウフフ。きっと、趣向が変わったんですね」 細やかな細工を施してある、細い支柱。童話に出てくる王女様が、夜な夜な王子様を待つような、丸く大きく迫り出した白いバルコニー。 外から眺めているだけでも、ため息が出るほど美しいそれらの建物に、私はうっとりと見入ってしまった。 「えりかさん、こんな素敵な場所に千聖を連れてきてくださって・・・」 「ん?まだだよ。中にも入れるんだよ」 「えっ、本当ですか!?中に??」 思わず大きな声を出すと、えりかさんは「爆笑ー」なんて言いながらケラケラ笑った。 「お嬢様の千聖も、結構おっきい声出すんだね。よかった、そんなに喜んでくれて」 「あら、そんな、私・・」 「でも、そっか。たしかにエッチな事してるときは大きい・・・」 「もう、えりかさん!早く中を見に行きましょう!」 照れ隠しに、少し強引にえりかさんの腕を引っ張ってみる。笑って応じてくれるのが嬉しい。 「ここから入ろう。最後にあっち見るから」 お気に入りの場所だけあって、えりかさんは慣れた風に洋館へと足を運ぶ。靴を脱いで、「せーの」でドアを開けて。えりかさんの大好きな空間に、私は一歩足を踏み入れた。 「・・・千聖。千聖?」 「・・あ、は、はい。」 どれぐらい時間が経ったのだろう。 空が夕焼け色に染まる頃、散々歩き回った私たちは、自由に座れる椅子が並ぶ窓際のテラスで一休みしていた。 「大丈夫?疲れちゃった?いっぱい回ったもんね」 「いえ、ただボーッとしてしまって・・・ここ、本当にとてもいい所ですね。いろいろ見て回ったものを思い返していたら、口数が減ってしまいました。」 「千聖、あんなにはしゃいじゃって。前の千聖に戻ったのかと思った。テンション上がりすぎだよ」 洋館はどれもシックで優雅な内装で、私は驚きと興奮で何度も奇声を上げたり走り回ったりして、そのたびにえりかさんを笑わせてしまった。 「ごめんなさい。お恥ずかしいところを・・・」 「んーん。貴重なものを見せてもらいました。とかいってw」 えりかさんは軽く笑うと、一枚のチラシを差し出した。ピアノを弾いている女性の影絵と、今休んでいるこの建物の名前が記載されている。 「リサイタル、ですか?」 「うん。今からやるみたい・・・聞いてく?無料だけど、結構本格的なんだってさ」 見れば、すぐ隣に設置されたコンサートホールには、もう大分人が集まっている。きっと人気の催しなんだろう。 「どうする?」 「せっかくですから、聞いてみたいわ」 「うん」 私たちは、ホールの一番後ろの席に移動した。肩を寄せて、さっきのチラシに目を落とす。 「曲目・・・ショパンの、別れの曲。葬送行進曲。・・・なんか、別れの曲ばっか・・・」 そこまで言って、えりかさんはハッと口をつぐんだ。 「ごめん・・・」 私を見る顔に、後悔や憐憫の色が浮かんでいる。 「えりかさん。」 大好きな人の、こんな顔は見たくない。だから私はえりかさんの腕に、体全部で寄り添って甘えた。 「大丈夫です、私。今、幸せです。だから・・・・」 「千聖・・・」 照明が落ちて、遠くのピアノが、優しい音色を奏で始めた。私はそのままの体制で、目を閉じて音楽に身を委ねた。 それは別れを主題にした曲目だけあって、しんみりしていて、でもどこか優しかった。楽器の心得がほとんどない私でも、優雅な調べの心地よさを感じることができる。 ――このまま、永遠に演奏が終わらなければいいのに。 そんなかなうはずのない願いが、ふと胸をよぎった。 このまま、えりかさんの隣で、ずっと二人でいられたら。 「このまま・・・」 「・・・千聖?」 「・・・・・いえ、ごめんなさい。」 楽しかったり、切なかったり、悲しくなったり。 一緒にいられる時間を、ただ純粋に喜びたかったのに、私の心はワガママになってしまう。 せめて、今この時間だけは。えりかさんの温もりを、私だけのものに。 最後の一音が、ホールの高い天井に吸い込まれるまで、私はギュッとえりかさんの腕にしがみつき続けた。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「えりかさん・・・」 「うぅ・・・ごめん」 まだ涙は収まらない。いつもの桃子とは違う、リアルに怖い一面を見せられたから、かなり動揺してしまっている。 「そんなに泣かないでください」 千聖は私の頬に手を当てて、チュッと唇を吸った。 「・・・千聖?」 「気持ちいいことしたら、気持ちが落ち着くかも知れないわ」 間接照明に照らされた千聖の顔は、やけに大人びて見えた。子供っぽい普段の印象がガラリと変わる、私の心を惹きつける千聖の2面性。 うっかりその表情に見とれていたら、いつのまにかベッドに押し倒されていた。 「ちょっと・・・んン」 子猫がジャレついてくるように、千聖は体を擦り付けて甘える。 「ふふ、えりかさんのお胸、柔らかいですね」 「あっ、だめだって・・」 さっきのお返しとばかりに、千聖は執拗に私の胸を触る。・・・あ、結構うまいかも。私の反応を見ながら、添えた手の力を強めたり弱めたり。 「うふふ」 黒いビー玉をはめ込んだように輝く三日月の形の瞳が、穴が開くほど私のオッパイを見ている。 「ここも、綺麗な色ですね。ピンクで」 「ち、千聖!そういうこと言わなくていいから!」 「あら、どうして?千聖のとは全然違うわ。お肌も白くて、お人形みたい・・」 可愛い顔に似合わないいやらしい手つき。無邪気なのにエッチな賞賛の言葉。千聖の変貌に驚きつつ、じわじわ沸きあがる気持ちよさを抑えられない。 私は無意識に手を伸ばして、千聖の頭を顔の前に引き寄せていた。 無言で見つめあった後、私に覆いかぶさっていた千聖の顔が近づいてくる。 「ん・・」 触れ合う部分全てが温かい。 千聖の体はしっかり筋肉がついているけれど、ちゃんと女らしい柔らかさを兼ねている。「ちーは抱き心地がいい」なんて舞ちゃんが言ってた事をふと思い出した。たしかに、こうして千聖の重みを感じながら、肌を合わせているだけで心が落ち着く。 「・・・ありがとう、千聖。もう落ち着いたから」 たっぷりその肌の感触を楽しんだら、さっきの涙はもう余韻もなくなっていた。目、腫れてないかな・・・あとで冷やさないと。 「え・・・で、でも・・・えりかさん・・・もう少し」 「大丈夫。またウチが気持ちよくしてあげるから。ね?」 髪に手を通して撫でると、千聖は少しほっぺたを膨らませた。・・・拗ねてる?お嬢様の千聖がこんな顔をするのは珍しい。 「どうしたの」 「だって・・・」 そんな表情とは裏腹に、思いっきり抱きついてくるのが可愛らしい。耳元でフガフガモゴモゴと何か言ってるけど、ちょっとよく聞こえない。 「なぁに?」 「・・・だって、いっつも、千聖ばっかり・・・・だから・・・えりかさんも、気持ちよく・・・」 唇を尖らせて、私の耳を軽くカプッと噛んできた。 「あはっくすぐったいよ。・・気にしなくていいんだって。ウチは千聖が気持ちよければ気持ちいいから」 「でもでも、」 千聖は私のおなかや腰を撫でたり指先で辿ったりしている。自分の弱いところだから、私もああいう反応になると思ったみたいだけど、残念なことに私は別にそこらへんは弱くない。 「・・・千聖では、えりかさんに気持ちよくなっていただくことはできないのかしら・・・・」 千聖はしょんぼりうつむいて手を止めてしまった。 「もう、そんなに落ち込まないで。あのね、人によって気持ちいいとこって違うの。ウチのいいとこは千聖とはまた違うだけ」 「そうなんですか・・・。私、ずっと気になっていて。与えていただくばかりで、千聖はえりかさんに何も返して差し上げられないから。」 「千聖・・・」 そんなことを考えていたなんて、全く予想も出来なかった。 考えてみれば、今まで千聖にいろいろしてもらうということはなかった。私が一方的に触れるだけ。 処理(・・・)は自分でどうにでもできるし、それを千聖に望むのは酷な事のように感じていたから。まぁ、ほら、単にあの瞬間の顔を見られたくないというのも。はい。 「・・・ウチは、千聖に触りたくて触ってるんだから、こうしてウチと一緒にいてくれるだけで、十分嬉しいよ。与えるとか返すとか、そんなの考えなくていいんだよ。」 「でも・・・」 「ちゃんと好きだから、千聖のこと。じゃなきゃこういうことはできないよ」 千聖は小さく息を呑んだ。 「本当に・・・?好き?」 「うん、大好き」 体を起こして、千聖を膝に乗せたまま顔を近づける。 千聖の瞳はどこまでも澄んでいて、穢れも曇りも感じない宝石のようだった。小さい頃、ママの宝石箱をこっそり開けて見た深い茶色のトパーズのような・・・ 「ごめんね」 「えっ」 「あ・・・ごめん、何か・・・」 無意識に口をついて出たのは、謝罪の言葉。同時に、また涙が落ちた。 ごめんって、何が。正直、謝らなければいけないことは結構たくさんありすぎて、どれについての「ごめん」なのか自分でもよくわからない。 千聖からエッチを仕掛けてくるのを拒んだこと? それとも、今更千聖の気持ちに応えるって決めたこと? 年上なのに、すぐメソメソ泣いて驚かせちゃうヘタレなこと? 「うぁー・・・」 考えれば考えるほど、自分がダメ人間のような気がして、私は頭を抱えた。情けない。本当に、何もかもが“今更”って感じで。 「ありがとうございます、えりかさん。」 そんな私の百面相をしげしげと眺めていた千聖は、やがてウフフと小さく笑いながら、首に手を回してきた。 「千聖も、えりかさんが大好き」 「うん」 自然に体がベッドに倒れこむ。今度は横向きに、向かい合ったまま。 「千聖、胸くっつけていい?」 「ん・・・・」 抱き寄せると、胸がふにゃっと形を変えてくっつく。柔らかいもの同士が触れ合って、感覚の鋭い先っぽが弾きあって、ビリッと電流が走る。 千聖と私はだいぶ身長があるから、これをする時は、いつもは上目で見上げてくる千聖と顔が近くなって嬉しい。 桃子や愛理みたいに無意味に(ていうか無意識に)顔を近づけられるのはちょっと苦手だけど、こういうことしてる時は、むしろ息がかかるぐらいのところで、しっかり見つめあうほうがいい。 子供みたいなちっちゃい顔の、ちっちゃいパーツが、私の手がもたらす感覚で蕩けたり惚けたりするのを見ると、幸せな気持ちになる。 「はぁ・・・」 甘くてじわじわした刺激を何度も繰り返していると、千聖は熱に浮かされたようなようなため息を一つついて、急に体の力を抜いた。 ――これは、もしかして・・・ 「千聖・・・?」 ゆっくり瞬きをして、再び私と目を合わせた千聖。キュッと唇を閉じて、刺すような視線を向けてくる。不審者、を見る目に近い。・・・さっきまでのお嬢様の柔らかい顔つきじゃない。ということは 「あー・・・えりかちゃ・・・えりか。」 「・・・はい」 私の胸に手をついて、「よいしょ」なんて言いながら、勢いよく体を離す。 「またですか」 「・・・そうです」 ベッドにあぐらをかいて座った千聖は、私のつまさきから頭までじっくり眺めて「えりかちゃん、すごい格好」と薄く笑ってバスローブを直してくれた。自分は裸なのに、何て男前! 「・・・今日のことは、どれぐらい覚えてる?」 千聖はお嬢様の時の記憶を部分的に失くしていることがあるから、そこは一応確認。 「買い物して、何かお屋敷みたいなの行って、あいりんと舞ちゃんと合流して、ご飯食べて、観覧車乗って、舞ちゃんにチューされて、お風呂でえりかちゃんに指突っ込まれたのは覚えてる。まだちょっと痛いし。」 「・・・・すみません」 「別にいいよ。私がやってって言ったんでしょ。よくわかんないけど。」 千聖はぴょんとベッドから飛びのいて、観覧車の見える方へ歩いていった。 「えっ、ちょっと、続きしないの?千聖ぉ」 名残惜しくて思わず追いかけると、千聖はニヤッと笑って私の手をかわした。 「あはは」 「もう、千聖ったら!」 大分テンションが上がっているみたいで、猫みたいにちょこまかと部屋中を駆け回る千聖。しかも裸で! 「待ってよー、ウチ舞美じゃないんだから、追いかけっこの相手は無理だって!」 こんなに必死になってるのは、千聖のたゆんたゆんがたゆんたゆんと揺れながら私を誘惑するから。 いかにも小生意気そうな顔で、ソファからバスルーム、トイレまで走り回って、千聖は私を翻弄する。またムラムラが湧き上がってきて、私は「ちしゃとおおおお」と叫んでピョーンと飛び掛った。 「うわあ」 幸か不幸か、ちょうど私を横切ろうとしたところだった千聖は、ラリアットをくらった状態になって、一緒にベッドに倒れた。 「あはは・・・」 また千聖がふざけだそうとする前に、私は両手首を掴んだ。二人分の重みで、そこだけベッドが沈む。 「えりかちゃん、」 千聖は笑顔を引っ込めて、真剣な顔で私を見返してきた。 「・・・えりかのこと、好き?」 「うぁっちょっと耳やめて!」 耳元に顔を埋めて小さな声でささやくと、千聖は猛然と身を捩った。 「ねぇ、好き?」 「・・・それは、だって」 「お嬢様は好きって言ってくれたよ」 自分がかなり意地悪なことを言っているのはわかっている。お嬢様も元々の千聖も同じ人間だけど、こっちの千聖は別に私に恋してるとか、そういうんじゃないはず。 だけどもう、私は自分の行動をとめることが出来ない。押し黙る千聖の耳をもう一度甘噛みして、強引にうつぶせにひっくり返す。 「えりかちゃん・・・?」 「まあ、いいか。マッサージしてあげる。体、疲れてるでしょ」 「あ・・・・、う、うん」 困った質問から開放された千聖は、露骨にほっとした顔になった。 「背中、強めでお願いね。」 まったく、調子がいいったら。 私はハンドクリームで指を暖めると、小麦色の背中に指をグッと押し込んだ。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「ふンッ・・・」 鼻から漏れる息で、媚びるような色を帯びる自分の声が恥ずかしい。思わず開いた口の中に、唇でとどまっていたチョコレートが押し込まれる。クラクラするほど甘いそれは、あっというまに舌の上で溶けていく。 「おいしい?」 くっついたままのえりかさんの唇が動く。私は声を奪われたように何も言えずに、慌てて首を縦に振った。 「そう。じゃあ、もうちょっと食べよう。今のはキャラメルかな。これは何だろう」 えりかさんはテーブルの上のチョコレートに手を伸ばして、再びそれを口に運んだ。今度は少し味わうようにしてから、私の唇を親指で押し開ける。 「んぅっ・・!ぁふ・・・」 二度、三度。えりかさんは口移しで、私の口に甘い塊を運ぶ。自分のものではない吐息が、顔を掠めるのがくすぐったい。睫毛がぶつかる。握り合わせた両手の指が、痛いほどに深く食い込む。 心臓は胸を飛び出しそうなほど高鳴っているのに、唇は甘い味に包まれて蕩ける。意識が朦朧として、何も考えられなくなってきた頃、えりかさんは私の唇を舌でなぞって、顔を離した。 「・・・えり、か」 「もうなくなっちゃったからおしまいね。おいしかったね」 いつもどおりの笑顔。見た目は普段と変わらない優しいえりかさんのはずなのに、窓に映る夜景の光が反射して、綺麗な瞳が獣みたいに光っている。私は射抜かれたように、その視線から逃れることができない。 「お風呂、入るよ。おいで」 そんな私の心情を知ってか知らずか、えりかさんは力の入らない私を少し強引に立ちあがらせて肩を抱く。 「ん・・・」 すぐに、再び唇が合わさった。チョコレートの甘い香りの余韻が残る。もっと、と腕を回してせがもうとすると、えりかさんは顔を遠ざけてしまう。 バスルームまで、数歩歩く毎にキスをして、また離れる。焦らされて翻弄されて、私にはえりかさんが何を考えているのか、全くわからなかった。 「千聖。」 やっとたどり着いた洗面所で、鏡越しにえりかさんと目が合う。 「・・・ウチがあげた服、着て来てくれたんだね。」 「あ・・・はい。母も、よく似合うって言ってくれて」 それは去年の秋頃、えりかさんが私に買ってきてくれた青いチュニックブラウスだった。袖や襟が可愛らしいレースでたっぷり飾られていて、女の子らしくて可愛い1枚。 家で来ていると明日菜や弟に「姉ちゃん何オシャレしてんのーデートだデートだ!」なんてからかわれてしまって、なかなか外にまで来ていくことができなかったけれど、今日は特別だった。 「うん、似合うね。よかった。」 えりかさんも微笑んで、私の髪を撫でてくれた。でも、その笑顔はすぐにスッと潜められてしまう。 「じゃあ、脱ごうか」 「え・・・」 裾からえりかさんの手が侵入して、わき腹を撫でる。 「ま、待ってください。待って・・・」 「知らないの?服を送るっていうのは、脱がせたいっていうサインなんだって」 ホテルについてから、えりかさんは何だか別の人みたいだった。優しいけれど、どこか容赦がなくて、何事も拒むことを許さないような無言の力がある。 「怒って・・・いるんですか」 えりかさんの手が止まる。 思い当たることといえば、さっきの・・・舞さんとの、観覧車で起こった出来事。でも、えりかさんは以前私の気持ちを伝えた時、「こたえられない」と言っていた。それなら、今こういう状況とはいえ、やっぱり私の片想いであることに違いはないわけで・・・ 「怒ってないよ。」 えりかさんは少し眉をしかめた。難しい顔をしている。 「でも・・・」 「すっごい、妬いてるの。舞ちゃんに。キスとかしないで、ウチの前で。他の子と」 みるみるうちに、えりかさんの両目から滴があふれ出す。ヒックヒックとしゃくりあげながら、えりかさんはそのまま、床にへたりこんでしまった。 「えりかさん」 「ごめん、何か情緒不安定気味」 どうしたらいいのかわからなくて、私は自分の胸にえりかさんの顔を押し付けるようにして抱いた。お父様やお母様に叱られた妹達は、こうすると落ち着いてくれるから。年上のえりかさんに有効なことなのかはわからないけれど・・・ 「もうしない?」 「ええ」 少なくともえりかさんの前では、と付け加えようと思ったけれど、そういうことは言わないほうがいいかもと思いなおして、口を閉じた。 えりかさんのことを大好きだと思うけれど、また舞さんに迫られたら、きっと拒むことはできない。だって、えりかさんは・・・ 私は、いつのまにこんなにしたたかになったんだろう。自分の変化が少しだけ寂しい気がした。 「大丈夫です。だから、千聖を脱がせてください。」 「えっ・・」 思わず口を付いて出た言葉で、えりかさんが涙目のまま「プッ」と吹き出した。 「千聖、ストレートすぎだから」 「ウフフ、本当ですね。嫌だわ、私ったら」 えりかさんの笑い声が、ダイレクトに胸に響いてきた。よかった、もう悲しい気持ちは収まったみたいだ。 「じゃあさ、脱がせっこしようか」 「脱がせ・・・いいですね、それは、楽しそう」 といってもえりかさんはキャミソールワンピにレギンスで、私はチュニックブラウスにヒッコリーパンツと軽装だから、すぐにそのイベントは終わってしまいそうだけれど。 「手、上に上げて」 えりかさんが、私の腕を袖から外す。唇が重なる。 私が、えりかさんの肩紐を落とす。またえりかさんの唇が降りてくる。 まるで、舞さんとの痕跡を消すかのように、えりかさんは何度も何度もキスを求めてくる。嫉妬されることが嬉しいなんて、私は初めて知った。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ ちっさーって、美人なんだ・・・ 小鳥のさえずりのような「僕らの輝き」を聞いたえりかちゃんがヒーヒー言いながら去っていくのを見届ける横顔を見て、私はそんなことを考えていた。 マスカラののりがとても良さそうな長くて濃い睫の下で、少し茶色がかった瞳が不安げに揺れている。 「えりかさん、体調を崩されてしまったのかしら。」 目が大きいとか、くっきり二重とかいうわけではないけれど、ちっさーの目は切れ長で黒目がちでとても神秘的だ。困ったような表情で見つめられて、少しドキドキしてしまった。 私とちっさーが一緒にいる時は、大抵一緒にバカなことをやって大笑いしていたから、ちっさーと言えば笑顔、元気、明るい、という印象が強かった。 そのギャップの大きさもあるのか、こうして間近で見つめるおしとやかなちっさーはとても可憐で、守ってあげたくなるようなオーラを纏っている。 「大丈夫だよ。なんかテンション上がりすぎちゃっただけだって。ちっさーが気にすることないよ。」 私が明るく返すと、ちっさーは胸の前で握った手を少し緩めて 「ありがとう、栞菜さん。」 とにっこり笑った。 ・・・・千聖はふざけてるわけじゃないよ。 昨日の夜、電話で愛理から真面目なトーンでそう言われたことを思い出す。ちっさーが変わってしまったあの日から、私は何となくちっさーと二人きりになることを避けていた。 元気キャラじゃないちっさーとどうやって話したらいいのかわからなかったし、もしこれが全部ちっさーのわるふざけだったら、私はちっさーを嫌いになってしまいそうで怖かったのだ。 そしてそんな風に考える自分のことも何だかイヤになってしまって、ここ数日、かなり落ち込んでいた。 そんな時、私を気遣ってくれたのか愛理が電話をくれた。私はちっさーに関して自分が思っていることを全部打ち明けた。 感情が高ぶって途中でボロボロ泣いてしまったけれど、愛理は優しい声であいづちを打ちながら、私の話を聞いてくれた。 「そうだよね、千聖が急に違う人になったら怖いよね。」 愛理の声はとても落ちついていて、しゃくりあげる背中をさすってもらっているような気持ちになった。 「でも、あの千聖もちゃんと千聖だよ。 変わっちゃったように見えるかもしれないけど、前と同じで優しくてみんなのことを大好きって思ってくれてる千聖のままだ。 だから私は今の千聖と一緒にいるの。」 何か気が合うっていうのもあるんだけどね、なんて照れ笑いしながら愛理は言った。 「明日、栞菜も千聖と話してみたら?何にも心配することないよ。」 そんな愛理からのアドバイスで、今日はずっと千聖と話す機会を伺っていたのだけれど、結局今に至るまでずっと話しかけられなかった。 「栞菜さん、あまり私とはお話したくないでしょうか?」 「へえっ!?」 悶々と考えこんでいると、いきなり千聖に話しかけられた。 「家族にも、友達にも、千聖は変わってしまったと言われます。でも私には、以前の私がわからなくて。大好きな方たちを困らせてしまうのは嫌なのですが・・・」 「ちっさー・・・」 そっとハンカチで目じりを押さえるちっさーを見ていたら何だかとても悲しくなってしまって、私はちっさーの頭を抱え込むように抱いて一緒に泣いた。 「不安にさせてごめんね、ちっさー。でもキュートはちっさーの家族だから。話したくないなんてありえないから。本当にごめんね。」 そして、いつまでも戻ってこない私たちをなっきーが呼びに来てくれるまで、ずっと抱きしめあって泣いた。(なぜかなっきーも号泣した。) 「どーしたの!?瞼腫れてるじゃん!」 鼻をグズグズさせながら休憩室に戻ると、舞美ちゃんが慌ててかけよってきた。 「喧嘩?殴り合いとか?仲直りは?」 「違うよぅ。」 慌てる舞美ちゃんがちょっと面白くて、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。 「私たちは仲良しでっす!さて、顔洗ってくるね!いこ、ちっさー」 「あ、栞菜さん。」 「・・・栞菜でいいよ」 「はい。・・・・・栞菜。」 ちょっと!私だってまだ愛理さんなのに!と愛理が後ろで叫んでいるのを尻目に、私とちっさーは手をつないで水道まで走った。 次へ TOP
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大丈夫、私は一人じゃないし、いざとなったら店員さんだって動いてくれるはず。 愛理の手を引っ張って、ぐんぐん奥へ進んでいく。 「このっ・・・・・」 変態め!2人を解放しなさい!! ウサギ人間をにらみつけてそう叫ぼうとしたのだけれど、どうも様子がおかしい。 みぃたんとえりかちゃんのまん前に陣取るその人は、腕組み足組みふんぞりかえって、威圧感と貫禄はかなりのものだった。 でも、超華奢。 どう考えても大人の体つきじゃない。っていうか、 「舞ちゃんじゃん!」 「ぶははははははははは」」 もう耐え切れんとばかりに、みぃたんとえりかちゃんがテーブルを叩いて笑い出した。 「なっきぃ反応よすぎ!ねえねえ何で“このっ”って言ったの?何で何で?」 「“このウサギ野郎!”って言おうとしたの?あっはっはっは!」 くっ・・・! 年長者2人がかりの言葉責めに、顔が真っ赤になる。 いったん顔を上げた二人は、私のみかん星人Tシャツを見てさらに吹き出した。 「みかんー!」 背後で愛理が耐え切れずに「ケッケッケ」と笑い出す声が聞こえた。 うさぎ舞ちゃんの細い肩もカタカタ震えている。 ヒドいケロ!とんだドSグループだ! 「もーなっきぃはやっぱり最高だね。おいで。」 涙を流しながら、みぃたんは私の腰を抱いて横に座らせてくれた。 「本当なっきぃはかわいいなあ。」 「ちょ、ちょっとそんなことより、何でうさぎ?」 私の質問に答えるように、舞ちゃんがおもむろにうさぎの首を取った。 たっぷり笑ったから、機嫌はかなりいいみたいだ。はにかんだ顔が可愛い。 「・・・なんか、目立つかなと思って。」 「いや、目立つけど誰だかわかんないよ。」 好きな歴史上の人物は徳川家康。モノマネもできます。 好きな言葉は一石二鳥。でも使い方はちょっと変。 舞ちゃんはしっかりものだけど、やっぱりどこか天然で変わった子だった。 「・・・じゃあ、全員揃ったところで。」 えりかちゃんはお誕生日席に移動して、私のみかん星人と目が合わないように若干上を見ながら、話を始めた。 「多分みんな気づいてると思うけど、今日は栞菜と千聖の件で集まってもらいました。」 わかっていたこととはいえ、みんな昨日のあの光景を思い出したのか、一気に緊張が走った。 「ウチはあの後栞菜を送っていったんだけど、かなり落ち込んでたのね。本当にひどい状態だった。だから、すぐ助けてあげなきゃって思って。」 「、ちっさーも同じ。泣けなくなっちゃうぐらいすごいショック受けてた。それで、えりと相談して、今日この場を設けたの。」 「・・・・なんで、2人はあんな風になったの?」 えりかちゃんたちの報告を聞いて、舞ちゃんが静かに問いかけた。 「それは・・・ごめん、私が勝手に言っていいことじゃないから。ちゃんと仲直りできたら、舞にも直接話がいくと思う。もうちょっと待ってて。 でも、これだけは言っておくけど、どっちか一人が悪くてああなったんじゃないの。 多分気持ちのすれ違いと誤解がたくさん積もっちゃっただけなんだ。 あとね、できるだけ舞と愛理となっきぃには中立でいてほしい。 正直、私はちっさーからいっぱい話を聞いたから、きっとこの件に関してはちっさー寄りの考えになっちゃうと思うのね。」 「そうそう。ウチは逆に栞菜とずっといたから、今は特に栞菜の気持ちが心配でたまらない。」 「・・・・要は、ニュートラルでいてってことだね。」 愛理がつぶやくと、2人は5秒遅れて「ニュー・・そ、そ、そうそう。・・・多分。」と言った。 舞ちゃんもしばらく考え込んでから、小さなうなずきとともに「わかった。」と短く返事をした。 「なっきぃも了解。」 本当は詳しい話が聞きたくてたまらなかった。 あんなにも当事者2人が傷つき果てた事件を、このままうわべだけ知って素通りなんてできるはずがない。 でも、みぃたんたちがそう言うなら待ってみようと思った。 今は先入観なしで、2人の手助けをしてあげるべきなんだ。 「で、具体的に何を?」 「うーん、まあ何をするってわけでもないんだけどさ、ここで2人を見守ってあげて。」 見守る? 「今からウチは栞菜の家に行って、栞菜をつれてここに戻ってくるから。千聖にはもう連絡してあって、もう一時間もしないでここに来ると思う。 ウチらが変に口出しするんじゃなくて、2人でとことん話し合ってほしいから、みんなは本当に緊急の時だけ手を差し伸べて。」 「わかった。」 「お店の人には、サプライズを仕掛けたい子がいるから、私たちの姿が見えづらい席に案内してって頼んであるから。」 さすがお姉さんコンビ。ぬかりないな。 「じゃあ千聖が来るまで、何か適当にオーダー・・・・・おっと」 テーブルの上に出しっぱなしになっていた、えりかちゃんのケータイが光った。 「やっばい、千聖だ。・・・もしもし?」 えりかちゃんは声をひそめて電話に出た。 いつもならマナー違反!とたしなめるところだけれど、正直、会話の内容が気になる。 「えっあと1駅?ウチまだなんだよ。・・・・うん、ごめん。待ってて。」 どうやらもうすぐ着いてしまうらしい。 ちょっとあわてているえりかちゃんを観察しながら、お冷に入っていた氷をごりごりとかじった。 二言三言交わした後、えりかちゃんはおもむろに口元を手で覆って、ニヤニヤしながら電話を切った。 ぶはっ 私の口から飛び出た氷が、愛理のおでこにゴチンとぶつかった。 「なっきぃ何やってんの!?」 「え、え、え、えりかちゃん・・・・・!」 幸か不幸か、私はかなり耳が良い。口を隠したって、斜め横の人の声ぐらいなら拾えてしまう。 えりかちゃんはエロカの顔になりながら、こんなことを言っていた。 「待たせちゃうけどごめんね、お詫びに今度すごいのしてあげるからね、千聖。トロントロンにしてあげる。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 「・・・なんかさ、なっきぃと千聖って結婚できそうじゃない?」 ある日のレッスンの帰り、ラーメンをずるずるとすすりながら、千聖がつぶやいた。 「げほっ」 「ちょ、大丈夫?」 あまりにも唐突で、予想もしないその言葉に驚いて咽る私の背中を、千聖がポンポンと叩いてくれた。 「ん、ごめん。・・・てか、何で?いきなりすぎてびっくりなんだけど」 はずかしいぐらい、自分の声が弾んでいるのがわかる。 だって、しょうがないじゃない。 いつも「ピクミン」呼ばわりされるぐらい、舞と千聖の後ろをちょこちょこついて回っては、徹底的に弄繰られるっていう役割なのに、いきなり同じ人間扱いしてもらえるなんて。しかも、結婚とか!ビバ!一生涯のパートナー!! 「だって、なっきぃって千聖のこと好きでしょ?」 「うん、好き好き大好き!」 「でへへ。やっぱさー、愛されるより愛したいとか言うけど、実際愛されたいよねー。報われないのってマジ辛い」 機嫌がいいんだか悪いんだか、口を尖らせチャーシューをもりもり食べながら、千聖はそんなことを言う。 主語はないけど、それが一体誰の事を指して言うのかなんて、確認しなくてもわかる。 「・・・舞ちゃん?」 「聞いてよーもう!舞ちゃんさぁ本当最近冷たいっていうかぁ」 「わかったわかった、お店の中で騒がないの!あとで話聞くから」 「ん」 興奮していても、宥めれば一応従ってくれるのが何だか嬉しい。 握り箸でどんぶりに顔を突っ込むその姿に苦笑しつつ、私も残りの麺をちゅるちゅると啜った。 「・・・んで?舞ちゃんがどうしたの?」 食後、近くの公園のブランコをこぎながら、私は千聖を促した。 「・・・あ、何かもーいーや」 「ええ!?」 なんたる気まぐれ!まあ、こういうの岡井さんには珍しいことじゃないんだけど、相談ノリノリモードに入っていた自分としては、ちょっと出鼻をくじかれた感じだ。 「何か、おなかいっぱいになったらどうでもよくなっちった。あははは」 「もー、千聖ぉ」 文句を言いつつも、私はこういう千聖の気まぐれに振り回されるのが嫌いじゃない。・・・いや、むしろ好き。 必要とされてるのがまず嬉しいし、機嫌が直ったのならそれはそれで安心するから。 今だって、バツが悪そうにほっぺを掻いてるはにかみ顔を見てるだけで、まーいいやって思ってしまう。 「もーね、いいの舞ちゃんは。どーせ千聖よりみっつぃを取るんだし。千聖には、愛してくれるなっきぃがいるもん」 「キュフフ、やっとわかってくれたんだね、岡井ちゃーん」 ハロコンが始まってからというもの、舞ちゃんにつれなくされ続けている千聖は、相当不満が溜まっていたようだ。(でも、あれは舞ちゃんなりのツンデレ作戦だったと思うけど・・・キュフフ、失敗して御愁傷様ケロ♪) 千聖だって結構、あっちへフラフラこっちへフラフラと自由にやってるくせに、自分が邪険にされるのは気に入らないらしい。 「でさ、さっきの話だけど。なーんか千聖、舞ちゃんがあんまり冷たいから、リアルに考えちゃって。 千聖結構、さびしがりじゃん?もしこの先、舞ちゃんと千聖が結婚とかするとしてぇ」 「いや、“もし”がもうありえないじゃん」 「だから、例えばだってば。・・・んで、2人の新婚生活を想像したら、何か絶対うまくいかないだろって」 「・・・なるほど?」 舞ちゃんと千聖の2人暮らしか。 きっと、楽しいときはものすごく楽しいんだろう。イチャイチャラブラブ、幸せ垂れ流しまくりで、もう正視できないレベル。 だけど、ひとたび喧嘩が勃発すれば、夕食のお献立選びや掃除の手順、寝るタイミングとか、些細なことで争いを勃発させて、即寝室を分けて眠ることになる様子が具体的に想像できる。 「んー・・たしかに、ムラがありそうだよね」 「でしょ!?だから、ちさまいは結婚には向いてないのかなって」 千聖はぴょこんとブランコを飛び降りて、私の座っているところに無理やりお尻をねじ込んできた。 「キュフフ、きーつーい!」 「まあまあ、いいじゃん!」 どうやら、今日は甘えんぼうモードらしく、体をすりすりさせてくる。愛用シャンプーの女の子らしい香りが鼻をくすぐって、何だかちょっとだけドキドキした。 「そんでね、せっかくだから他のキュートのみんなでも想像したわけ。結婚生活を。 まずー、舞美ちゃん!きっと、舞美ちゃんと千聖なら、笑いの絶えない面白い家庭を築けると思うんだ!・・でも、朝起きたら家が吹っ飛んでるとか、なぜか家の中でライオンがうろうろしてるとか、ありえないハプニングが起こって大変そう!」 「・・・言わんとすることはわかるケロ」 「次、愛理!何かね、千聖は絶対、愛理を大事にする自信はあるんだ。でも、気を使いあっておかしなことになりそう! 会話とか「あ・・・」「あ・・いいよ全然」「ううん、いい。全然全然」「全然全然全然」とか言って。で、あいりんが定期的に爆発して家出すんの!」 なぜか楽しげにケラケラ笑う千聖につられて、私も爆笑する。 狭いブランコが、2人分の振動でガクガクと揺れて、その危なっかしさに余計に笑いが止まらなくなる。 「あーおもしろ!・・・そんじゃ、次なっきぃね!」 「え、私?キュフフフ」 次へ TOP
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「あはっ冗談だよ。噛まない噛まない。それより、・・・えりかちゃん、舞知ってるんだ。」 舞ちゃんは耳元でゴショゴショと内緒話を始めた。 「えっ?いだだだ・・・な、なにを知ってるって?ちょ、ちょっと舞美痛い!」 「だから、えりかちゃんは千聖にもっといろいろしてたの知ってるよ。なっきぃは千聖たちのベッドの真下だったけど、舞は隣だったからね。見ちゃった。」 げっ! 「そんな顔しないでよ。なっきぃには言ってないから。・・・でもびっくしりた。あんなとこ、触るんだ。千聖エッチな声出してたね。」 「ま、舞ちゃん!」 「ああいうのを、イクっていうの?お姉ちゃんの買ってる雑誌に書いてあったけど」 舞ちゃんは淡々と喋りながらも、表情に怒りがにじみ出てきている。私の耳を掴む手も万力みたいに力がこもり始めた。 「・・・・舞が、千聖より年上だったらえりかちゃんより先にイクをやってあげたのに。えりかちゃんなんて、別に千聖のこと好きなわけじゃないのに。」 「そう!それだよえりかちゃん!」 突然、なっきぃが口を挟んできた。 「えりかちゃんは、千聖のこと好きでもないのにあんなことして。そんなの、不真面目でチャラチャラした男とかと一緒じゃん!」 「え?えりはちっさーのこと嫌いなの?嘘だー」 「みぃたんはお口ミッフィー!・・・あんなの、普通じゃないよえりかちゃん。今はえりかちゃんだけだからいいけど、もし千聖が誰とでもああいうことするようになったらどうするの?えりかちゃん、責任取れるの?」 いたたたた!なっきぃの細くて白い指が胸に食い込む。 「じゃ、じゃあもし、ウチが千聖を好きだったら?それなら問題ないの?」 私が放った言葉に、なっきぃは目を見開いて硬直した。 「えりこちゃん・・・何言ってるの」 「遊びじゃなかったら、ウチが本気なら認めてくれる?」 私、何言ってるんだ。 無意識に口から出た言葉は、なっきぃだけじゃなく私自身も狼狽させるものだった。 千聖とこういうことするようになった一番最初の動機は、完全に悪ふざけと好奇心だった。 一緒に温泉に入って、照れて震えるお嬢様にエッチな刺激を与えた。それが始まり。 私たちの行為はどんどんエスカレートしていった。 事務所の空き部屋。 ツアーで泊まるホテル。 テレビ局のトイレ。 いろんなところで、誰にもみつからないように声を殺して千聖に触れた。 私から誘ったことは、最初の1度しかない。でも、無言で寄り添ってくる千聖を拒んだことは1度もない。そんなことは考えたこともなかった。 「えりかちゃん・・・本気で言ってるの?答えて。」 動揺して黙り込んだなっきぃに変わって、今度は舞ちゃんの真剣なまなざしと視線がぶつかった。 「ごめん、まだわかんない。例えば、って言ったでしょ。」 「えりかちゃん、わからないならそんなこと簡単に言わないで。・・・・舞は、本気なんだよ。」 「ごめん・・・」 私の心は、依然千聖への「好き」の意味を測りかねて揺れていた。 “えりかちゃんは、ちっさーが相手じゃなきゃエッチはしないと思うの。” カレー作りの時の栞菜の言葉を思い出す。 確かに、それはそうだ。 私はスキンシップが好きだから、しょっちゅうふざけてメンバーの体に触る。でも、それはその場かぎりのおふざけ。 千聖にするように、裸を抱いたりはできない。ありえない、そんなの。 「まあまあ、今日はこの辺で勘弁してあげようよ、なっきぃ。さ、部屋戻ってシャワー浴びよう!」 何が何だかわからない風だけど、この重たい雰囲気は変えたいと思ったのだろう、舞美が妙に明るい声を出した。 「・・うん」 最初の元気はどこへやら、なっきぃはうなだれてしまっていた。 「・・・えりこちゃん。」 それでも言うべきことははっきりさせたいとばかりに、もう一度私の目を見つめる。 「さっきの質問だけど・・・私はまだあんまり恋愛とかちゃんとわかってないから、えりこちゃんが千聖を好きならいいのか・・・っていうの、今は答えられない。 でもね、私は千聖のこともえりこちゃんのことも本当に大好きなの。だから、2人が変な方向に行ってほしくないの。それはわかって。」 「うん、わかった。ありがとう」 なっきぃは私の答えを聞くと、一度だけ目元をぐいっとぬぐってにっこり笑った。 「私もえりが好きだよ!えりは私と違ってしっかりしてるから、大丈夫だよ。私信じてるよ、えりのこと。何だかよくわかんないけど。じゃあね!」 最後まで意味もわからず参加していた舞美は、なっきぃの肩を抱いて出て行った。 「私も戻るね。・・・さっきは言いすぎてごめんなさい。 えりかちゃんの千聖への気持ちがはっきりしたら、私には言ってね。好きなら、ライバルになるから。敵じゃないよ、ライバル。」 それだけ言うとすぐに、舞ちゃんもコテージを出ていった。 一人取り残された私は、ヒリヒリ痛む腰をさすりながら、荒れ果てたベッドや濡れたままの床の掃除を始めた。 ――コン、コン 「えりかさん、いらっしゃいますか?あの、千聖です。入ってもいいですか。」 その時、控えめなノックとともに、鈴のような可憐な声が聞こえた。 私は返事をする前に、鍵を開けてドアを全開にした。薄い水色のナイトドレスを着た、儚い姿の美少女が立っている。 千聖が何か言い出す前に、私はその小さくて柔らかい体を抱きしめた。 「えりかさん、私言わなければいけないことがあって。」 「うん。」 背中に回された手が心なしか震えている。私は玄関を閉めて、2人きりの空間を作った。 「わ・・・私、あの、私・・・」 千聖はうつむいたまま、長いまつげの下の瞳をひどく揺らしていた。 「大丈夫、何でも言って?」 「ありがとうございます。私、」 ためらいがちに開かれた一度唇をキュッと噛み締めると、千聖は顔を上げてまっすぐに私を見た。 「私は、えりかさんのことが好きです」 ああ 私は目を閉じた。大きなため息が、口からこぼれ落ちた。 驚きはなかった。どこかで千聖の気持ちを感じ取っていたのかもしれない。そして、自分が答えるべき言葉も・・・ 「ありがとう、千聖。ウチも、千聖のこと大好き。だから」 千聖の顔に、明るい色が灯る。胸が痛い。私は言葉をつないだ。 「だから、もう終わりにしよう、千聖。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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何を言われたのかわからなかったのか、千聖はしばらくぼんやりした顔で私を見つめていた。 「千聖、もうこういう関係はやめよう。」 私はもう一度、千聖の目を覗き込んで言った。みるみるうちに顔色が変わっていく。 「どうして・・・」 「千聖、栞菜と愛理に何か言われたんでしょ?千聖は・・・ウチのこと好きなんじゃないか、とか。」 「・・・」 何も答えないことが、逆に私の問いかけを肯定しているようなものだった。 「千聖は、舞美のことも、なっきぃも、舞ちゃんも、愛理も、栞菜も、みんな好きでしょ? だから、なにもウチだけを特別に好きなわけじゃないんだよ。」 千聖は必死で首を横に振って否定する。私は千聖をまっすぐ見ることができなくて、眉をひそめるその悲痛な顔を、自分の肩に押し付けた。 「千聖は恋をしてみたかっただけなんだよ。たまたまみんなと違う、気持ちいいことしてくれる“えりかさん”が側にいたから、ウチのことを恋愛対象だって錯覚しちゃっただけ。 栞菜や愛理もそれを支持してくれたから、気持ちが盛り上がっちゃったんだよ。」 「違う・・・」 「違わない。千聖、これからいくらでも好きな人とか見つかるんだから、ウチなんかを好きだなんて思っちゃダメ。」 「違います、」 「ごめんね。ウチが調子にのって変なことするから、千聖を混乱させちゃったんだね。」 「えりかさっ・・・どうして・・・・ひどい・・・・・」 千聖の声がかすれていくのを聞きながら、私は泣いていた。 自分の心に嘘をつくことが、こんなに苦しいとは思わなかった。 きっと、私は千聖のことを好きなんだろう。 そして、千聖も本当に私のことを。 だからこそ、千聖の傷が浅いうちに離れなければいけない。 千聖の瞳が押し付けられた肩が生暖かく、じわじわと濡れてきた。 2人の心が共鳴してるみたいで、よけいに切なかった。 「千聖、ウチとこんなこと続けてたって、未来がないよ。ずっと今のままじゃいられないんだよ?」 「・・・・っそんな、の・・・先のことなんてっ・・・私は、今・・・えりかさんと」 「そういう生き方、千聖には似合わないよ。」 私は今まで、やりたいことを好きにやりながら気ままに生きてきた。 でも今回ばかりは、あまりにも責任が重過ぎる。 千聖が私とこの関係を続けていくことで、何か大切なものを失ってしまうような気がして怖くなった。 なっきぃの言うように、千聖の未来を破壊してしまう行動だったのかもしれない。 「そんな顔しないで。ウチは、千聖のこと嫌いになったんじゃないよ?ただ、もうエッチなことするのはやめようってだけの話。 別に、こういうのしなくても、ずっと仲良しだったでしょ。そういう関係に戻りたいの。 私は、千聖のことを、恋の対象にはできないから」 嘘。 また胸が小さく痛んだ。 5分、10分、沈黙のままに時間が流れていく。 「・・・・・・わかり、ました。」 千聖は消えそうな声で、ポツリと呟いた。 「困らせてごめんなさい。」 千聖は私から体を離して、フラフラと自分のベッドの方に歩いていった。 「千聖?」 「寝ますね。・・・おやすみなさい。」 振り返った千聖は、無理矢理唇を微笑む形にしていた。力のない瞳が、涙の余韻で不自然にキラキラ輝いている。 「うん・・・おやすみ」 千聖はたどたどしい動きで、布団の中にもぐりこんだ。 「電気、消すね。」 私は小さな電球一つでほの暗くなった部屋を出ると、ユニットバスの栓を抜きながら一人でワンワン泣いた。 どうして、と思うほど心が乱れて、しゃくりあげる声が止まらない。 知らないうちに、こんなに好きになっていたのに、もうどうしようもない。 「ごめん、千聖。」 排水溝に吸い込まれていく水と一緒に、私の涙も消えてくれればいいのに、と思った。 何とかえづく声が治まってから、私は部屋に戻った。 薄暗い部屋の奥のベッドで、千聖が胎児みたいにうずくまって眠っていた。 最近大人っぽくなったと思っていたけれど、瞳を閉じた顔はまだ子供みたいにあどけない。 私はベッドサイドに座り込んで、千聖を見つめた。 もう触れることはできないけれど、せめてこうやって、寝顔を見守ることだけは許して欲しい。 千聖のベビーパウダーみたいな香りを感じながら、私はいつしか目を閉じていた。 「えりかさん・・・そろそろ、起きないと」 「ん・・・?」 優しい声が耳をくすぐって、目が覚めた。 朝になっていたみたいだ。淡い紫色のキャミソールを着た千聖が、私を覗き込んでいた。 「えりかさんたら、ベッドから落ちて床に寝てらしたのよ。」 「あ、本当?気付かなかったよ、ハハハ・・・」 まさか、千聖のベッドからずり落ちましたとはいえない。 いつもどおりの優しい笑顔だったけれど、少し赤く腫れたまぶたが、千聖がひどく泣き続けていたことを物語っていた。 「私、舞美さんたちのお部屋に行っていますね。鍵をお願いします。」 「あ、千聖」 ゆっくり振り返った千聖が、口を開いた。 「いろいろ考えました。私・・・やっぱりえりかさんのことが好きです。もう私に触ってくださらなくても、それでも好きです。だから」 昨日までとは違う、しっかり意思を持った強い瞳が私を射抜く。 「まだえりかさんを、好きでいることを許してください。」 私が絶句している間に、千聖はぺこりと頭を下げて部屋を出て行った。 千聖は私が思っていたよりもずっと、純粋で、たくましくて、逆境に強い子だった。そう、前の千聖のように。 千聖のためと言いながら、自分が傷つくことから逃げていた私とは大違いだ。 私がまず向き合わなければいけなかったのは、千聖本人じゃなく、自分自身だった。 もうすぐ集合時間になってしまう。 私は着替えをしながら、ハンズフリーで電話をかけた。 「もしもし?おはよーえりかちゃん。どうしたの?」 「うん、おはよう、舞ちゃん。昨日の話なんだけどね・・・・」 戻る TOP コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -